日本映画オールタイム・ベスト10

「キネマ旬報」は、5回日本映画史上ベストテンを発表しています。「キネ旬」の伝統の方式でランキングしてみました。

キネマ旬報「日本映画オールタイム・ベスト10」
題名'09-11
プロ
読者
'99-10'95-11'89-01'79-11備考コメント
七人の侍
 ('54・黒澤明)
2
1
1211'54キネ旬3位野武士と戦うために侍を雇うエピソードの前半と野武士との戦の後半まで、素晴らしい描写の世界に誇る最高傑作。
東京物語
 ('53・小津安二郎)
1
2
3126'53キネ旬2位久方ぶりに上京した老夫婦が、息子や娘の家を泊まり歩き、人情の機微と悲哀、家族の普遍性を描く大傑作。原節子が最高に美しい。
浮雲
 ('55・成瀬巳喜男)
3
5
2344'55キネ旬1位
'55ブルーリボン
'55毎日コンクール
妻のいる男を執拗に追いすがり、ついには病に倒れる女の宿命を描く大傑作。高峰秀子の凄みが表れている。
飢餓海峡
 ('65・内田吐夢)
 
7
3653'64キネ旬5位10年前に殺人を犯した男が、当時に金を恵んだ女に出会い殺してしまう。画面の荒れた粒子を荒らんだ心理として表現している。
生きる
 ('52・黒澤明)
 
3
11832'52キネ旬1位
'52毎日コンクール
癌を患い死を自覚した役人が、絶望の後に生きることを決意する。死後、葬式でエピソードを語るシークエンスが素晴らしい。
人情紙風船
 ('37・山中貞夫)
 
 
 444'37キネ旬7位ろくな人間のいない長屋で、終始暗いストーリーだが、映像が美しい。見終わって寒々とした心に、忘れられない思いが残る。
幕末太陽伝
 ('57・川島雄三)
4
 
5106 '57キネ旬4位遊郭で無一文になり居残りになったが、要領の良い佐平次が抜け目なく懐を暖め、頃良く逃げ出すという痛快な喜劇。
二十四の瞳
 ('54・木下恵介)
6
6
8 108'54キネ旬1位
'54ブルーリボン
'54毎日コンクール
師弟の愛情をあたたかく感傷的に描いているが、女教師の教育に対する信念が表現されていて素晴らしい。
羅生門
 ('50・黒澤明)
7
 
57 9'50キネ旬5位盗賊による強姦と殺人事件をめぐり、それぞれの証言が食い違い、人間の身勝手が描かれる。世界に日本映画を認めさせた作品。
西鶴一代女
 ('52・溝口健二)
 
 
11576'52キネ旬9位貞淑な娘が男を手玉にとって、ついには堕落していく様を鬼気迫る演出で描いている。田中絹代の演技は、監督と対決し凄まじい。
仁義なき戦い
 ('73・深作欣二)
5
 
8 11 '73キネ旬2位ヤクザ映画の代表作で、個人的に大嫌いであり、二度と観たくない。この席は「キューポラのある街」が相応しい。
砂の器
 ('74・野村芳太郎)
 
4
    '74キネ旬2位
'74毎日コンクール
殺人事件を捜査していく過程で、オーケストラの演奏をバックに親と子の宿命を浮き彫りに描いた感動作。
丹下左膳余話・百万両の壺
 ('35・山中貞夫)
7
 
 9   「丹下左膳」シリーズのパロディだが、物語の面白さと独特な構図の映像が素晴らしい。天才、山中貞夫の最高傑作。
雨月物語
 ('53・溝口健二)
 
 
10 8 '53キネ旬3位物欲や執念に溺れた人間たちの浅ましさ弱さを描く。死霊の場面の揺れるカメラが良く、映像の様式美を完成させた大傑作。
赤い殺意
 ('64・今村昌平)
 
 
7   '64キネ旬4位夫の封建制にあえいでいた女が、強盗に犯され、その後に関係を続ける。女は本来強く逞しいことを描いている。
太陽を盗んだ男
 ('79・長谷川和彦)
7
 
   -'79キネ旬2位中学教師が原爆を作ったが、何に使うか判らなかった。そこで政府を脅迫して前代未聞の要求を満たそうとするエンタテイメント映画。
家族ゲーム
 ('83・森田芳光)
7
 
   -'83キネ旬1位高校受験を控えた中学生に、家庭教師として雇われた男が巻き起こす波紋が家族の在り方を変える異色のドラマ。実験的な構図にインパクトがある。
赤ひげ
 ('65・黒澤明)
 
8
    '65キネ旬1位
'65ブルーリボン
'65毎日コンクール
江戸時代、小石川療養所で貧困層の医療に尽力する医師と、その弟子の葛藤を主軸に描くヒューマン感動作。
用心棒
 ('61・黒澤明)
 
11
  9 '61キネ旬2位二つのやくざが対立している宿場に来た浪人が、喧嘩を仕掛けてお互いに疲れたところを残り全員を殺し、去って行くという痛快な物語。
天国と地獄
 ('63・黒澤明)
 
9
  11 '63キネ旬2位
'63毎日コンクール
子供を誘拐して身代金を要求するという凶悪な犯罪に対して罪が軽い法律に、敢然と触発した。この作品をきっかけに刑法が改正された。
忠治旅日記・信州血笑篇
 ('27・伊藤大輔)
 
 
   9 国定忠治を描いたサイレント作品。フィルムが散逸している幻の映画。
野良犬
 ('49・黒澤明)
10
 
    '49キネ旬3位若手刑事がバス車内で拳銃をすられ、その拳銃を使った強盗事件が発生する。ベテラン刑事と共に犯人を追うサスペンス映画。
台風クラブ
 ('85・相米慎二)
10
 
   -'85キネ旬4位台風によって中学校の校舎の閉じこめられた生徒が思春期特有の心と肉体の揺れを描いた青春映画。
泥の河
 ('81・小栗康平)
 
10
   -'81キネ旬1位
'81ブルーリボン
'81毎日コンクール
戦争で心の傷を負った父子と、家を持たずに対岸の舟で生活する姉弟との交流と別れを描いたひと夏の切ないストーリー。
麦秋
 ('51・小津安二郎)
 
 
 11  '51キネ旬1位
'51毎日コンクール
「晩春」に続く紀子三部作の第2章で、家族の別れを枯れた演出で描いている。「東京物語」とともに原節子の美しさが映える。
晩春
 ('49・小津安二郎)
 
 
    '49キネ旬1位
'49毎日コンクール
以下は、残念ながらベスト10に入選しなかったが、上記作品にも勝るとも劣らない作品。
結婚する娘と父の関係を日常の中に描いたドラマで、その後の小津映画のスタイルが確立した。
蜘蛛巣城
 ('57・黒澤明)
 
 
    '49キネ旬4位シェイクスピアの戯曲「マクベス」を日本の戦国時代に置き換え、能の様式美を取り入れた。シェイクスピアの映画化で、最も優れた映画の一つとして評価されている。
おとうと
 ('60・市川崑)
 
 
    '60キネ旬1位
'60ブルーリボン
'60毎日コンクール
大正時代の空気の色を、《銀残し》という現像処理でモノクロでもなくカラーでもない映像で表現した作品。
キューポラのある街
 ('62・浦山桐郎)
 
 
    '62キネ旬2位
'62ブルーリボン
鋳物職人の娘であるジュンの周囲で起こる貧困問題、家族の衝突、在日民族などの問題が描かれる。これは吉永小百合の演技力を広く認めさせた傑作。
切腹
 ('62・小林正樹)
 
 
    '62キネ旬3位
'62毎日コンクール
彦根藩井伊家の上屋敷に浪人が現れ、切腹のために庭を拝借したいと申し出た。当節金を無心する困窮した武士が横行していたが、申し出の通り切腹を承知する。
ツィゴイネルワイゼン
 ('80・鈴木清順)
 
 
   -'80キネ旬1位
'80日本アカデミー
レコードから自ら演奏しているサラサーテの声が聞こえると言う、奇怪な物語を繰り広げる作品。
細雪
 ('83・市川崑)
 
 
   -'83キネ旬2位ベスト10に入選しないのが不思議なほどの傑作。華やかな四姉妹と四季折々の関西を舞台に市川監督の光と影の色彩が美しい。
おはん
 ('84・市川崑)
 
 
   -'84キネ旬6位原作の舞台は岩国だが、想像の地方との解釈で抽象化が行われた。優柔不断な夫に振り回される妻のけなげな半生を描いた。
となりのトトロ
 ('88・宮崎駿)
 
 
  --'88キネ旬1位
'62毎日コンクール
豊かな自然と美しい四季あふれる田舎に越してきた一家が経験するファンタジー・アニメ
選出された作品は、'50年代と'60年代の作品で占められていることに気が付いただろうか。余りにも偏った評価と思ったのか、'80年代にも優秀な作品があるということで、'90年9月に「'80年代のベストテン」が選出されている。
1位には「ツィゴイネルワイゼン」(鈴木清順)/'80年キネ旬1位 、2位には「泥の河」(小栗康平)/'81年キネ旬1位、3位には「ゆきゆきて、神軍」(原一男)/'87年キネ旬2位、4位には「家族ゲーム」(森田芳光)/'83年キネ旬1位 である。そして、9位には「細雪」(市川崑)/'83年キネ旬2位 が選出されている。鈴木清順監督や市川崑監督のベテランも健在であるが、小栗康平監督、原一男監督、森田芳光監督などの新人が台頭してきているのが特長である。

キネマ旬報は、創刊100年特別企画で年代別ベスト・テン(日本映画編)を発表しました。その1位と2位に独断でベストな作品を追記しました。
「年代別ベストテン」の1位・2位と個人的なベスト
1970年代(2018年8月発表)
順位作品名キネ旬ベストテン
太陽を盗んだ男
 (1979年、長谷川和彦)
1979年キネ旬2位
仁義なき戦い
 (1973年、深作欣二)
1973年キネ旬2位
 幸福の黄色いハンカチ
 (1977年、山田洋次)
1977年キネ旬1位
1980年代(2019年1月発表)
順位作品名キネ旬ベストテン
家族ゲーム
 (1983年、森田芳光)
1983年キネ旬1位
ツィゴイネルワイゼン
 (1980年、鈴木清順)
1980年キネ旬1位
ゆきゆきて、神軍
 (1987年、原一男)
1987年キネ旬2位
 細雪
 (1983年、市川崑)
1983年キネ旬2位
1990年代(2019年10月発表)
月はどっちに出ている
 (1993年、崔洋一)
1993年キネ旬1位
ソナチネ
 (1993年、北野武)
1993年キネ旬4位
 Shall We ダンス?
 (1996年、周防正行)
1996年キネ旬1位
2000年代(2020年7月発表)

 (2000年、阪本順治)
2000年キネ旬1位
ユリイカ
 (2001年、青山真治)
2001年キネ旬4位
 おくりびと
 (2008年、滝田洋二郎)
2008年キネ旬1位

独断ですが「心に残る2000年代の日本の傑作映画」と題して、ベストテンから外れている作品を公開順に選んでみました。(2021年選定)
日本映画・心に残る2000年代の傑作映画
映画題名
Title
キネマ旬報ベストテン
毎日映画コンクール
千と千尋の神隠し
Spirited Away
(2001:宮崎駿)
第75回(2001) キネ旬3位
第56回(2001) 毎日コンクール大賞
たそがれ清兵衛
The Twilight Samurai
(2002:山田洋次)
第76回(2002) キネ旬1位
第57回(2002) 毎日コンクール大賞
リンダ リンダ リンダ
Linda Linda Linda
(2005:山下敦弘)
第79回(2005) キネ旬6位
実録・連合赤軍 あさま山荘への道程
United Red Army
(2008:若松孝二)
第82回(2008) キネ旬3位
母べえ
Kabei: Our Mother
(2008:山田洋次)
第82回(2008) キネ旬7位
淵に立つ
Harmonium
(2016:日・、深田晃司)
第90回(2016) キネ旬3位
万引き家族
Shoplifters
(2018:是枝裕和)
第92回(2018) キネ旬1位
第73回(2018) 毎日コンクール大賞
ドライブ・マイ・カー
Drive My Car
(2021:濱口竜介)
第95回(2021) キネ旬1位
第76回(2021) 毎日コンクール大賞


(c) J. Shinshi

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